
ALT 「ふられてしまったの」 三日ぶりに見た彼女は酷くやつれた顔でたった一言、そう言った。泣いて、涙も枯れ果てたのだろう、頬には薄っすらと涙の跡がついていて、日が暮れる少し前の日差しに照らされている。 約束をしなくても、すぐ近くに住んでいる彼女はほとんど毎日どこかで顔を合わせていたし、仲も良い。それに、体調不良であればすぐにウチの診療所を訪れる。何かおかしいとは思っていたが、その理由が今わかった。 「……あの恋人に? 何の冗談だ?」 この前まで、オレの想いも知らずに、頬を赤らめていて惚気を披露していたというのに。彼女の不幸を喜ぶ気持ちをグッと腹の奥にしまって、腰を少し屈めて顔を覗く。 「他に、好きな人が出来てしまったって」 言葉にすると、薄っすらと涙をうかべた。顔を見ない間に、彼女はずっとこのようにして過ごしていたのだろう。そして、消え入るような声で呟いた。 「……死んでしまいたい」 いつも明るい彼女が、そんな言葉を吐くだなんて、相当憔悴しているらしい。 死というものが何かをオレはよく知っている。それは医師としてだけではなく、もう一つの仕事からくる知識の方が大きい。 勿論、隠されたその仕事をを彼女が知っているわけではないが。 涙を浮かべる彼女の首に手を伸ばし、首の後ろに触れる。 白く滑らかな、細い首のすぐ奥に感じる骨の感触。 唐突にぐっと首を押された事に彼女は驚いて、触れた場所を自身で触りながら不思議そうにオレを見上げた。 「……ジャイロ?」 「頸椎って言うんだぜ、ココ」 「ケイツイ?」 「聞いた事ねぇか? そこを折ると、人間は簡単に死ぬ。……オレなら、苦しまずに死ぬ方法を知っている」 彼女の顔が、一瞬にして恐怖に変わった。よく知っている、死を想像した時の表情。 オレは人間が死を恐れる顔を、今までに何度も見ていた。 ――だから安心した、そんな顔が出来るのであれば、まだ大丈夫だ。 彼女を見下ろして、ニィ、と笑ってみせる。 「な〜んて、冗談だぜッ!」 彼女はまだ大丈夫だ、ただ、そんな言葉を吐いてしまう人間は脆くて危うい。 オレは今、善人の顔をして慰める方法、そして狡猾な頭は今、彼女をどうやって落とすかを考えている。







