基礎言語学研究会 retweeted
リクルートと塾に異常に詳しい僕から、スタサプ売却の話をまとめて書いてみよう。超長いよ。
まず現時点でリクルートが「スタディサプリを売却しました」と正式発表したわけではない。
2026年10月号の月刊『選択』が、リクルートがスタディサプリから完全撤退する方向で、小中高校生向けの個人サービスを売却すると報じている段階である。
記事では学習塾向けサービスを3月末で終了したことにも触れられているが、学校向けスタディサプリは現在も普通にサービスを提供しているので「スタサプが全部終了する」という話ではない。誰が買うのか、学校向けをどうするのか、そもそも本当に記事通り売却まで進むのか、この辺はまだ分からない。ただ、塾業界を10年以上荒らしまくったスタサプに売却報道が出たというのは相当面白い話である。
スタサプは失敗だったのかと言われたら僕は全くそう思わない。そもそも2013年に受験サプリがオンライン予備校を月980円で始めた時点で普通に頭がおかしい。当時リクルートが行った調査では、塾や予備校に通う受験生が払っていた金額は月平均44,744円。
それに対してカリスマ講師による5教科の授業を月980円で見放題にした。年間何十万円を取っていた予備校業界に、突然リクルートがやってきて「980円でいいですよ」と始めたのだから、当時の予備校経営者からすれば余計なことすんなと思ったに違いない。しかも安い代わりに大学生が適当に教えるサービスではなく、大手予備校で高い評価を受けた講師を集め、校舎を持たず少数精鋭の講師で全国に授業を流すことでこの価格を実現した。今なら当たり前に聞こえるが、2013年に全国規模でこれをやったのはかなり異常である。
その後2020年に新規入会者のベーシックコースは月980円から月1,980円になった。既存会員は旧料金を継続できたので全員一斉に倍になったわけではないが、それでも新しく入る人からすればほぼ2倍である。ところが1,980円になってもまだ安い。月1,980円でかなりの数の授業が見放題なのだから、大手予備校の講座を何個も取るのとは価格が全然違う。つまりスタサプが壊したのは単純な授業料ではなく「良い先生の授業を受けるにはそれなりの金を払う必要がある」という予備校業界の価格感そのものである。
僕は浪人して予備校へ行った時、学校の先生と予備校講師ってこんなに違うのかと衝撃を受けて、本気で予備校講師になりたいと思ったことがあるので昔の予備校文化はかなり好きである。昔の予備校は「あの先生から習いたいからこの予備校へ行く」という文化が今より圧倒的に強かった。代ゼミの富田一彦先生、東進なら安河内哲也先生、今井宏先生、志田晶先生、林修先生。この辺の先生は完全に僕個人の評価ではあるが、授業そのものだけで選べと言われたらスタサプの講師陣より上だと思っている。別にスタサプの講師が下手という意味ではなく、むしろスタサプは全体的な平均値がかなり高く、大外れを引きにくい。全国どこにいてもかなり分かりやすい授業が安く見られることに価値がある。一方で富田先生や今井先生みたいな講師は「英語を習いたい」ではなく「この先生の英語を習いたい」まで行く。林修先生なんて予備校講師の枠を完全に飛び越えてしまった。ここは似ているようで全然違う。
そして映像授業が広がった時に1番困るのは、こういう怪物みたいなトップ講師ではなく「普通に授業が上手い先生」だと思う。昔なら新宿にも横浜にも大宮にも名古屋にも大阪にも先生が必要なので、その地域でかなり分かりやすい授業ができれば仕事になった。ところが東進はトップ講師1人の映像を全国へ流した。スタサプはかなり質の高い授業を月1,980円で全国へ流した。
その後YouTubeが無料で授業を流しまくるようになり、今はAIまでいる。全国の高校生が同じ授業を見られるなら、各地域にそこそこ上手な先生を大量に置くより、圧倒的に上手い先生1人を全国へ流す方が効率が良い。逆に本当に強い講師は映像授業が普及するほど全国から生徒を集められるのでさらに強くなる。森田鉄也先生みたいにYouTubeで自分自身に客を集め、そのまま自分の教育サービスにつなげることまでできるようになった。昔は予備校が生徒を集めて講師の前に座らせていたが、今は講師自身がメディアを持って客を集める。無料で授業を見せたら商品がなくなるどころか、無料授業を見せることで「もっとこの先生から習いたい」という客を作れる。授業を無料で配っているように見えて信用を配っているわけである。
ここまで授業が安くなって、YouTubeなら無料にまでなったらリアルの塾はかなり消えそうなものだが、実際には全然消えなかった。2020年にリクルートが公表した時点でスタサプは会員数140万人超、全国約5,000校の高校のうち2,598校に導入されていた。コロナで学校が止まった時には家から授業を受けられるスタサプが一気に広がり、「これもう塾いらなくない?」という話まで普通に出た。それでも早稲田アカデミーは5万人規模の生徒を抱え、ステップも強いし、臨海セミナーも7万人規模まで生徒を集め、武田塾も全国へ校舎を増やした。家で安く良い授業が見られるのに、なぜわざわざ電車に乗って塾へ行き、毎月何万円も払うのかとなる。
理由はかなり単純で、家でスタサプを渡されただけで毎日勉強できる高校生ばかりではないからである。大人だって仕事から帰ってYouTubeやNetflixを全部我慢して毎日2時間勉強しろと言われたら大半続かない。それなのに高校生には「月1,980円で神授業を用意したので、あとは自分で毎日見て勉強してください」でいけるという前提の方が無茶である。現在の学校向けスタディサプリも動画を置いて終わりではなく、先生が宿題を配信し、学習状況を確認し、進路希望などの情報まで管理できるようになっている。もし良い授業を置いておくだけで高校生が勝手に勉強するなら、こんな管理機能はいらない。スタサプ自身も動画だけでは教育が完結しない方向へどんどんサービスを広げていったわけである。
この流れで武田塾が急成長したのもかなり面白い。武田塾は「授業をしない」と真っ向から言い出し、志望校から逆算して参考書を決め、毎日の勉強量を決め、本当にやったか確認し、確認テストを行い、できていなければ戻すということを商品にした。義務自習を付ければ決められた時間に自習へ来なかった生徒へ電話までかける。昔の予備校講師からすれば授業をしない塾なんて何言ってんだとなるが、やっていること自体は超真っ当で「勉強ができないならちゃんと勉強しろ」である。スタサプが「良い授業をこんなに安く提供できます」を証明した横で、武田塾は「そもそも良い授業があっても勉強しない奴をどうするんだ」を商品にして大きくなった。塾業界は授業を神格化しすぎる傾向があるが、90分間めちゃくちゃ分かりやすい英文法の授業を受けて感動した翌日に英単語を1個も覚えない生徒なんて普通にいる。数学の授業を聞いて分かった気になっても、その日の夜に問題集を開かなければできるようにはならない。良い授業を作ることと、高校生に実際に勉強させることは全く別の能力なのである。
そして2026年になってここへAIまで乗り込んできた。AIに数学を聞けば説明するし、「もっと簡単に説明して」と言えば説明し直す。「同じくらいの問題をあと5問作って」と言えば作る。同じ質問を何回しても嫌な顔をしないし夜中でもいる。AIが予備校講師を全部消すみたいな話はさすがに雑だと思うが、「普通に分かりやすく説明する」という仕事の価値がこれから下がっていく可能性はかなり高い。ただしここで「だからAI時代こそ人間の温かさです」みたいに綺麗にまとめるのも違う。人間だから価値があるわけではない。50分間つまらない授業をする先生と、自分が理解できるまで何度でも説明してくれるAIならAIでいいという高校生は普通に出る。一方でAIに「早稲田大学へ合格する勉強計画を全部作って」と頼めば相当立派なものを作ると思うが、それを見て「すげえ」と言いながらスクショして、そのまま勉強しない高校生も大量に出ると思う。僕が高校生なら普通にやっていた可能性がある。
だから今回の売却報道を見て「スタサプは失敗した」「オンライン教育よりリアル塾の勝ちだった」と考えるのはかなり違うと思う。そもそもリクルートという会社は学習塾でも教育専門会社でもない。Indeed、SUUMO、ホットペッパーなどいろんな市場で、情報がバラバラに存在して選択が面倒だったところへ入り込み、それを巨大なサービスにしてきた会社である。教育でも似たようなことをやり、東京や大阪の大手予備校まで行かなければ受けられなかったような授業をインターネットに載せ、全国へ980円で流した。リクルートからすれば「名講師の授業」は神聖なものというより全国へ流通させることのできるコンテンツでもあったのだと思う。これを教育業界でやった結果、良い授業への地域格差と価格格差をかなりのところまでぶっ壊した。
ただリクルートはリクルートなので、教育業界から評価されているからという理由だけで永遠に事業を持つ必要もない。リクルート全体から見ればスタサプも数ある事業の1つであり、この先どれだけ伸びるのか、どれだけ利益を出せるのか、そこへ人と金を入れることが他の事業より効率的なのかという判断は当然行われる。だから仮に本当に売却が成立しても、それをもってスタサプというサービス自体が失敗だったという話にはならない。むしろ2013年に980円で始めて教育業界の価格感を壊し、学校にまで大量導入され、YouTubeやAIまで出てきた現在につながるオンライン教育の流れを作った時点で、教育業界への影響は相当大きかった。
そしてスタサプは「良い授業を安く全国へ届ける」というところをかなりのレベルまでやってしまったからこそ、その先に残る問題まで見えるようにしてしまった。昔なら地方に住んでいて成績が上がらなければ「東京の有名講師の授業が受けられないから」と言えたし、予備校代が高くて通えなければ「良い先生に習う金がないから」と言えた。それをスタサプは980円でかなり壊した。その後YouTubeでは無料になり、AIなら質問までできる。それでも人は参考書を買って満足するし、スタサプに入って安心して見ないし、YouTubeを「後で見る」に入れて一生見ない。AIに完璧な勉強計画を作らせても実行しない。結局、良い授業を受けられることと、その人が本当に勉強することは全然違ったのである。
「神授業を安くしたサービス」ではなく、「神授業だけでは人間は勉強しないことまで明らかにしてしまったサービス」。
これがスタサプの正体である。
研究発表会の録画をアップロードしました。
【基礎言語学研究会 第1回研究発表会】、 9月26日(土) 森本匡紀「言語の普遍性に関する諸考察」 西畑宏紀「既存の文法記述といかに向き合うか」
youtu.be/LpdKYthsHMc
youtu.be/y9I5u7-kJYo
皆様
森本さんの発表題目が「言語知識の研究に関する諸考察」に変更になりました。お含みおき下さい。
参加申し込みはまだ受け付けています。
【開催まであと2週間】
基礎言語学研究会 第1回研究発表会を、9月26日(土)13:00からオンラインで開催します。
森本匡紀「言語の普遍性に関する諸考察」
西畑宏紀「既存の文法記述といかに向き合うか」
参加無料・要申込です。
申込フォーム:
forms.cloud.microsoft/Pages/…
【開催まであと2週間】
基礎言語学研究会 第1回研究発表会を、9月26日(土)13:00からオンラインで開催します。
森本匡紀「言語の普遍性に関する諸考察」
西畑宏紀「既存の文法記述といかに向き合うか」
参加無料・要申込です。
申込フォーム:
forms.cloud.microsoft/Pages/…
基礎言語学研究会です。
【基礎言語学研究会 第1回研究発表会】、
9月26日(土)13:00-18:00、オンライン(Zoom)で開催します。
森本匡紀「言語の普遍性に関する諸考察」
西畑宏紀「既存の文法記述といかに向き合うか」
参加無料・要申込です。
forms.cloud.microsoft/Pages/…
#基礎言語学研究会 #言語学
また、12月5日(土)の午後にも、別の新進気鋭の院生2名に、それぞれオンラインで研究発表をしていただけることになりそうです。こちらも確定次第お知らせします。
他にも発表希望の方がいらっしゃったら、お気軽にご連絡下さい。
Replying to @kisogen
発表したい方は、お気軽にDMでネタを教えて下さい。
「完成された研究成果の発表」だけでなく、
「問いの共有」「違和感の言語化」「方法論・前提への疑問」なども歓迎します。
時期は9月末〜12月末あたりの1~2日間を考えています。希望時期も教えていただけると助かります。
拡散希望です。
2/13 14:40-16:10 C-5にてやらせていただくことになりました。
引き続き質問フォームで本書についての質問を募集します。forms.office.com/pages/respo…
編者の山泉さんと窪田さんが言語学フェス2026に「『言語学を科学哲学する』とはどういうことか」と題して応募しました!
フェスまで質問フォームで本書についての質問を募集します。
forms.office.com/pages/respo…
編者の山泉さんと窪田さんが言語学フェス2026に「『言語学を科学哲学する』とはどういうことか」と題して応募しました!
フェスまで質問フォームで本書についての質問を募集します。
forms.office.com/pages/respo…
お久しぶりです。基礎言語学研究会です。
本研究会でお馴染みの、山泉実さん、窪田悠介さん、田中太一さん達による基礎言語学的な論文を多数収録した『言語学を科学哲学する』が大修館書店より発売されました。編者2人が来年どこかで何かをやるそうなので、こちらもお楽しみに taishukan.co.jp/book/b101437…
お久しぶりです。基礎言語学研究会です。
本研究会でお馴染みの、山泉実さん、窪田悠介さん、田中太一さん達による基礎言語学的な論文を多数収録した『言語学を科学哲学する』が大修館書店より発売されました。編者2人が来年どこかで何かをやるそうなので、こちらもお楽しみに taishukan.co.jp/book/b101437…
9日に行われた
言語研究博覧会 3「記述研究と計算言語学と理論言語学:「私自身の問い」を探しつづけて」窪田悠介さん
の動画を本日18:00からプレミア公開します。お楽しみに。
youtu.be/vx1UilkOuFY
第3回 言語研究博覧会:窪田悠介先生(国立国語研究所)が来週に迫ってきました。3月9日13:00~ オンラインで行います。
まだまだ申し込みを受け付けています。
お申し込みはこちらから: forms.gle/1KPgA6he1ajr3XZL6…興味のありそうな方にご転送下さい。
イベントをURLで拡散していただく場合は、こちらをお使い下さい。
tetsugengogaku.wixsite.com/h…
過去の博覧会はこちらからご覧になれます。
youtube.com/channel/UCb2jxt9…
基礎言語学研究会です。今年もよろしくお願いします。
第3回 言語研究博覧会:窪田悠介先生(国立国語研究所)、3月9日13:00~ オンラインで行います。
お申し込みはこちらから:
forms.gle/1KPgA6he1ajr3XZL6
興味のありそうな方にご転送下さい。
基礎言語学研究会です。今年もよろしくお願いします。
第3回 言語研究博覧会:窪田悠介先生(国立国語研究所)、3月9日13:00~ オンラインで行います。
お申し込みはこちらから:
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興味のありそうな方にご転送下さい。
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私の「チョムスキーのここが分からない」という疑問に成田広樹先生に徹底的に答えてもらいました。
1. r.voicy.jp/YQm47ke6K2W
2. r.voicy.jp/EGV340Z6Kyb
3. r.voicy.jp/wWK8GNXDVB7
まったく前提知識がないと厳しいかもしれませんが、チョムスキーの思想について知りたい人はぜひ!!









